65歳以上の死亡リスク が急上昇する「やせすぎ」が危ない理由

2020.01.02フレイル予防・対策記事より転載。

65歳以上の死亡リスクが急上昇する「BMIパラドックス」とは何か「やせすぎ」が危ない理由

●死期を早めることになる。

「医学的な見地からみても、60歳を超えてから体重を落とそうとするのはまったくナンセンスです。自ら死期を早めていると言っても過言ではありません。

事実、’10年に文科省の助成金によって行われた、65歳から79歳までの日本人2万7000人を追跡調査した研究があります。

そこでは、BMIが20を下回った途端に死亡リスクが急上昇するというデータが示されています。これは『BMIは低いほうがいい』という従来の認識とは逆の結果です。私たちは、この現象を『BMIパラドックス』と呼んでいます」(ふくろうクリニック等々力院長の山口潔氏)

やせている人は病気にかかりやすく、死亡リスクが高い。
それだけではなく、一度病に冒されると、その回復さえもままならない。病気になりやすいうえに治りにくいとは、踏んだり蹴ったり以外のなにものでもない。なぜ、そんな悲惨な状態に陥ってしまうのか。それはなによりも免疫力の低下が原因だ。

人は一般的に20代で免疫力のピークを迎え、それからはずっと下降線を辿っていくもの。免疫力のピーク時を100%とすると、40歳前後で50%に、70歳を超えるころには10%にまで下がってしまう。
さらに、60歳を過ぎてだんだん口腔の筋力が弱まれば痰を出す力もおぼつかなくなり、食べ物がうまく飲み込めなくなってくる。

咀嚼も満足にできないのだから食べることがつらく、まるで「苦行」のようになってしまう。摂取カロリーは著しく低下し、みるみるうちにやせていく。すると免疫力はさらに低下して新たな病気にかかる。負のスパイラルだ。

身体機能の低下と体重減少。この状態は一般的に「フレイル」と呼ばれている。
これは’14年、日本老年医学会が提唱した概念で、ひとりの人が元気に生活を送れている状態から寝たきりになってしまうまでの過渡期を指している。まさにこの時期に多くの人は体重が激減し、ありとあらゆる病気のリスクに晒される。

「たとえば、インフルエンザ。やせている人は免疫力がなく無防備で、丸裸のような状態です。そんな容体では、すぐにウイルスに侵入されてしまいます。さらにはインフルエンザを発症したことで肺炎が引き起こされるなど、まるでドミノ倒しのように次々と別の病気にかかってしまうのです」(前出・山口氏)

国立感染症研究所は2019年11月15日、インフルエンザが全国的な流行期に突入したと発表した。
これは例年よりも1ヵ月ほど早く、’99年に統計を取り始めてから「新型インフルエンザH1N1型」が世界的に大流行した’09年に続いて、2番目のスピード。強烈なパンデミックが予想される中で、やせている人は死と隣り合わせの危険な冬を迎えることになる。

やせ型の人がかかりやすい病気は枚挙に暇がない。低栄養による腎不全に、体内のナトリウムやカリウムが調節できず電解質異常に陥ることで起きる不整脈。結核などの感染症もそうだ。

やせているよりも多少太っている人のほうが脂肪の蓄えが多く、免疫力も高い。その分、病気にもなりにくい。事実、最近ではポッチャリ体型の人こそが最も長生きするという調査結果が次々に発表されている。

やせてしまうことでタチが悪いのが、とにかく病気の治りが悪くなってしまうことだ。「この状態になってしまうと、どんな手術を受けても予後が悪くなります。抵抗力が弱まっているので回復が遅く、いつまで経っても完治しない。これは循環器や消化器などのジャンルを問わず、あらゆる病気にあてはまることです。

せっかく手術が成功しても、身体機能が著しく低下しているので、それについていけない。治癒の方向にはいかず、むしろ病気が悪化していきます」(前出・山口氏)

⚫️ただの風邪でも死ぬ

合併症も恐ろしい。

やせている人にとっては、ときに単純な風邪ですら命取りになってしまう。都内の老人ホームで働くベテラン介護士は、こう語る。

「つい先月、風邪が原因で亡くなった70代の男性がいました。その方は2年前からうちのホームに入居していたのですが、加齢とともに体重が落ちていくことが心配の種でした。身長165cmで、体重は49kg。かなりのやせ型です。風邪をひき始めた当初は、数日の間、ベッドで安静にしていれば良くなると思っていました。ところが、一向に快方に向かわない。それどころかズルズルと長期化し、どんどん症状が重くなっていきました。そして発熱してから1週間が経った日、ベッドの上で急に激しい胸の痛みを訴え始めました。急性の心筋梗塞を起こしてしまったんです」

発熱が長引くと心肺機能が低下し、そのまま心不全にかかってしまう危険性がある。
この男性の場合、まさにそれにあてはまってしまった。

前出の山口氏曰く、なにより問題なのは、多くの60歳以上の人が低栄養の怖さを自覚していないことだという。

「実際に高齢者の患者さんに『もっとたくさん食べましょう。意識的にタンパク質を摂りましょう』とお話ししても、ピンとこないんです。低栄養なんて対岸の火事で、自分の身体に栄養が足りていないなんて露ほども思っていないのでしょう。やせていることの危険性は、ほとんど認識されていないのです」

やせているせいでありとあらゆる病気にかかり、回復もしない。そのまま衰弱し、最悪の結末を迎えてしまう。

「スリムになった」と糠喜びをしていたら、あっという間に命を落としかねない。

週刊現代より。

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投稿者プロフィール

座間 清 院長
座間 清 院長
専門は整形外科・老年内科・抗加齢医学
老年内科の診療、特に認知症医療では基礎研究結果に基づいた理論を重視、保険診療においても抗加齢医学を考慮し、認知症患者にとって適した治療を提供。
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